マァムの身体が電流を伝わされたように跳ねた。視界を覆われ、何をされているのか、マァムには分からない。もっとも、さきほど果てた
ばかりのその場所を、ポップの舌で舐られているなど、目にしたところでマァムには信じられないだろう。牧歌的なネイル村で生まれ育ち、
つい昨日まで男を知らなかったマァムである。
「な……っに、これ……」
息も絶え絶えに、マァムが尋ねる。答えずに、ポップはマァムの紅い真珠に吸い付いた。赤々と充血したそれは、捕食された小動物の
ように、ポップの口内で驚き跳ねる。
「はぁっ……!」
マァムは背を反らし、爪を立てるようにシーツを掴んだ。その様に、ポップは安堵する。こうして愛された女がよくするように、
マァムがポップの頭をおさえつけたら、マァムに気づかれてしまったかもしれない。彼女を抱いているのが、彼女の愛する剣士ではないことに。
目隠しをすると同時に、ポップは手だけを残してモシャスの効果を解いている。ポップの髪は今、ヒュンケルとは明らかに髪質の違う、
彼本来の癖毛である。
「ああっ、や……あっ!何か、変っ……!」
自ら腰を浮かせ、マァムは喘いだ。昨夜にも増して乱れる彼女の様子を、ポップは満足げに見やる。
「いやっ……あ!違う、嫌じゃない、やめない、で……!」
いや、という言葉に合わせて舌を止めると、案の定、マァムは懇願してきた。目隠しの下の瞳は、熱く潤んでいるだろう。
目隠しを取り去ってやりたくなる衝動を、ポップは懸命にこらえた。まだだ。まだ早い。
「ああっ、イク、またイッちゃう、イッちゃうよぉ!」
狂ったように叫ぶマァムを見上げ、ポップは冷笑した。可哀想に、好きでもない、「ただの男仲間」にこんなところを見られて。
俺に舐められてイッちゃったなんて知ったら、お前どんな顔するんだろうなぁ?とろりと、太腿を濡らすほどの愛液が、マァムの
そこから零れる。ポップは、指でそれを掬い取ると、舐め上げてにやりと笑った。絶望した人間はいい顔をする、その顔のまま死ねと言った
モンスターの気持ちが、今なら分かるような気がした。
愛液を舐め取った指をマァムの口に含ませ、口内で往復させる。マァムはおずおずとポップの指に舌を絡め、懸命に吸い付いた。
ヒュンケルの手で頬を撫でてやると、嬉しげに微笑んだ。犬みてぇ。ご主人様を間違えてる、バカ犬。こみあげる笑いをこらえ、
ポップはマァムの腋に手を差し入れ、彼女の上身を持ち上げた。「へっ?」と間抜けな声をあげたマァムの腰を、狙いを
定めて自身の上に下ろす。いきり立ち、天を突いたポップのそれは、しとどに濡れたマァムの女孔に難なく押し入った。
「ああぁっ!!」
一際高く叫んで、マァムはポップの上で跳ねた。顎を上げたマァムの首筋から、豊かな胸の谷間へと、汗がつたって落ちる。
いやらしい。こんな感じなんだ、下から見るこいつって。昨夜、ヒュンケルの背を隔て、断片しか見ることのできなかったマァムの痴態を
最も近くで見ることで、ポップは溜飲を下げた。あとは、ここにヒュンケルがいてくれりゃあ、完璧なんだけどな。
昨夜のヒュンケルを真似て、ポップはゆっくりとマァムを突き上げた。
「あっ……あぁ、あ……」
昨夜のままのマァムの嬌声が、ポップを尚更狂わせた。やおらマァムの腰をつかみ、激しく自身のそれに激しく打ち付ける。
「ああ、っあ、あ、壊れ、ちゃう、あ、たし……」
「っ……!」
あと一歩で達してしまいそうになるのを感じて、ポップは慌てて腰を止めた。危ねぇ。何やってんだ俺、童貞じゃあるまいし。
一度だけ、ラーハルトに教えられて行った遊郭を思い出しながら、ポップは息をついた。少しでもマァムに似てる子をって、
店の子の写真、小一時間も眺めてたっけ。あの時はまだ、信じていた。いつかマァムと愛し合い、本物の彼女をこの腕に抱くことを。
―――叶ったじゃねえか。自嘲気味に笑って、ポップは繋がったままマァムの身体を寝台に倒した。
「………?」
そのとき、マァムがしたことに、ポップは少しだけ驚いた。意思を失った抱き人形のようだった彼女が、不意にポップの手を
―――今のポップの身体の中で、唯一偽りの部分を手にとり、頬を寄せたのだ。戸惑うポップに、マァムは夢を見ているように
呟いた。
「ヒュンケル……ここに、いるの?」
ぎくりとしたポップに勘付く様子もなく、マァムは言葉を続けた。
「もっと抱いて、信じさせて……ここにいるって。もうどこにも行かないって」
目隠しの下から、マァムは涙を流していた。その温もりを、ヒュンケルから借りた手に感じて、ポップはわなわなと震えた。
ほんの数時間離れることが、どうしてそんなに辛い?俺はお前の心と、永遠に別たれたというのに。
「好きよ、ヒュンケル」
ぶつりと、何かが切れる音を、ポップは聞いた。ポップはマァムの目隠しに手をかけると、ほどくのさえ面倒だとばかりに、
マァムの喉元まで一気にずり下げた。
幸せに蕩けそうだったマァムの笑顔が、瞬時に凍りつく。見開かれた瞳、声なき声で叫ぶ唇。愛しい剣士の面影を探して
揺らいだ瞳は、じわじわと涙で淀んだ。ポップの身体を、ぞくぞくと震えるような快感が貫く。
「う……そ……」
「ほんと」
絞り出すようなマァムの声に、ポップは彼らしい軽い口調で応じた。同時に、マァムの脚の間で直立していた身を乗り出し、
マァムの鼻先まで顔を近づける。ポップの自身が身体の奥まで割り入るのを感じて、マァムは息を飲んだ。
弟弟子の顔を間近に見ながら、マァムはまだ、悪い夢でも見ているような面持ちでいた。
「……何、で……?だって、今……ヒュンケル……」
「ヒュンケル?『これ』のこと?」
ポップはマァムの眼前に、モシャスで変形した手を突き出すと、そのまま術を解いてみせた。ヒュンケルの榑立った剣士の手が、
見る間に少年らしいしなやかな手に戻っていく。マァムは、おぞましいものでも見るように、その様に釘付けられた。
「便利だよなぁ、モシャスって。頭から爪先までそっくり似せることもできれば、こうやって一部だけ借りることもできる。
……何で目隠ししたか、これで分かった?」
「………!」
全てを悟ったマァムは、全身でポップから逃れようとあがいた。しかし、深々と犯されているために、体の自由が効かない。
屈辱に唇を噛みながら、無理にでも体を離そうと上身をひねる。
瞬間、側頭部に強い痛みを感じて、マァムは顔を歪めた。そのまま、無理矢理にポップの方を向かされ、髪を掴まれたのだと
ようやく気づいた。自ら乱雑に引っ張っておきながら、その桃色の髪を愛しげに撫でるポップに、マァムはどんなモンスターにも
感じることのなかった恐怖を覚えていた。
誰より明るく強靭な精神を持ち、その強さで勇者さえ励ました魔法使いの少年は、そこにはいない。
「……どうし、て、こんな……ポップ……どうしちゃったのよ……?」
ポップはにぃっと笑うと、マァムの脚を開いて思い切りマァムを嬲った。最奥を突かれ、マァムの表情が苦悶に歪む。
「やめ……っ、いやあぁぁ!!」
「あんま声出すなよ、外に誰かいたら聞こえちまうぞ。俺は大歓迎だけど?」
「う……う、あ……」
「昨夜もすげぇ声でやってたし、お前、城で噂になっちまうかもよ。兄弟弟子とっかえひっかえしてるってさ。先生が泣くよな」
下卑た中傷に、マァムの顔が怒りに染まる。ポップはそれさえ、いいね、いつものお前らしくなってきたと、茶化すように笑った。
「信じられない……あんたなんか……酷い、最低よ」
「ああ、まったくだ」
ポップは言うなり、マァムの最奥に自身の先端を押し付け、こすりつけた。
「やめてっ……!」
「ガキでもできたら、どっちが親父か分かんねえもんなぁ。何せ一日違いだ」
「……っく……う……」
歯を食いしばって涙をこらえるマァムを、ポップは冷たく見下ろす。
「だけど似合いなんじゃねえの、お前には。男の人として好きなのはヒュンケル、だけど俺のことも失いたくない……だっけ?」
怒りに震えていたマァムの表情が、凍りつく。
「何も言わなきゃ、俺が一生でもお前のこと好きでいるって……ちゃんと分かってたんだろ、お前」
「……違うわ……あれは」
「うるせえ」
ポップは言い捨てると、再び彼女を犯した。抗うマァムを全身で抑えつけ、幾度となく彼女の秘部を穿つ。切れ切れに訴えかけてくる
彼女の言葉に耳を貸すことは、一度もなかった。そうして、ポップが己を放つ最後の瞬間、
「ヒュンケル……ッ!!」
悲鳴のように、マァムは叫んだ。
目を覚ましたとき、腕の中にマァムの姿はなかった。ポップは頭をかきながら、まあ当然か、と妙に冷めた思いでいた。
行為の最中に脱ぎ捨てたヒュンケルの服を、横目で見遣る。
―――ヒュンケル、か。
あれだけ汚されて、傷つけられて。それでもなお彼女はヒュンケルの名を呼んだ。
―――関係ねえだろ、もう。
胸を締め付けるような感傷を、ポップはすぐに打ち消した。自分から望んで、全てを手放したのだ。彼女への想いも、友情も、
思い出さえ。ほんの昨日まで、心の一番温かな場所を占めていたものを、全て。
だからきっと、胸を抉るようなこの痛みも、いつか忘れることができる。
ポップは一息に寝台を立ち上がり、兄弟子からの借り着に手を伸ばした。
ふと目をやると、ポップは椅子の上に不自然なものを見つけた。それは、自室に脱ぎ捨ててきたはずの自身の法衣。
丁寧に畳まれ、持ち主の帰りを待っていたように端然と椅子にかけている。歩み寄り、服を手にしたポップは、
中から転び出た封書を目にする。宛名書きは、大きいが女性らしい、温かな字―――マァムのものである。
頭で考えるより先に、ポップは封書を切っていた。
数十秒後、大慌てで着衣したポップは、疾風のごとくその場から姿を消すことになる。窓から飛び出し、空を駆け、
銀髪の兄弟子を探しに。
⇒epilogue
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