その場所に触れられたとき、レオナは「ひっ!」としゃくりあげるような悲鳴をあげた。
指先にはっきりと感じる潤いは、高潔なレオナが恥じるには十分すぎたかもしれないが、確実に性交を遂げるには
まだ足りない。ヒュンケルはできる限り優しくその溝をなぞると、慎重に指を差し入れた。
「あ……!」
叫びかけた彼女の口を、唇で塞いだ。舌先で口内を侵しながら、柔らかく指を動かす。戦士にしては繊細な
ヒュンケルの指さえ、レオナのそこはきつく締め付けた。しかし、最初の挿入のときの、拒むような締め付けとは
明らかに性質が違う。ヒュンケルの指が緩やかに進退する度、細やかな襞が絡みつき、淫らな水音を増していく。
「んん!!」
一際大きくレオナが反応した場所を、ヒュンケルは目敏く捉えた。親指で肉芽を擦りながら、レオナの最も感じる
場所を繰り返し刺激する。
「んっ!んん!」
首を振り、口付けから逃れようとするレオナを、ヒュンケルは許さなかった。片手でレオナの頬を押さえつけ、
いっそう深く舌を絡める。レオナは気づいていないが、身体が強張っていては挿入時に痛みが増すため、
闘魔傀儡掌は既に解いてある。声をあげることを許せば、近衛兵に気づかれてしまう。
唇を封じられたレオナは、キスをしながら呼吸する術など知る由もなく、そのまま絶頂を迎えようと
していた。性交しながら首を絞められているようなものである。
「んん、ん、んーーーーっ……!!」
瞬間、レオナのそこはびくびくと収縮し、蜜にまみれた。ヒュンケルが唇を外すと、レオナの口端から、どちらのものとも
つかない唾液が彼女の頬をつたった。焦点の合わない瞳と、だらしなく半分開かれた唇はひどく淫らで、玉座の上の
彼女とは別人のようだった。
これがレオナか。あの気高い王女か。
ヒュンケルの意識下に、彼自身気づかないまま、黒々とした劣情が芽生えた。
乱れてしまえ。もっと、もっとだ。この腕の中で、狂ってしまえばいい。
肉茎を挿し入れられ、レオナは一瞬硬直したが、力を抜けと、耳元で囁かれた言葉に素直に従った。
言う通りにすれば、もっと気持ち良くなる。経験がなくても、本能がそう教えてくれた。心の壊れたレオナの身体が
従うのは唯一つ、本能だけであった。
「あぁ……あん……っふ………」
ずるずると、熱いものが体内で往復を繰り返しては、時折外に出て、また侵入してくる。焦らされるようなその
行為に、レオナは身を捩る。固く凝った胸の蕾をヒュンケルの上身に擦り付け、熱く喘いだ。
「はぁ……あ……」
「……っく……」
レオナの女の部分がひくつき、熱い蜜を撒き散らす。それを感じて、ヒュンケルの自身はレオナの体内でびくびくと
膨れ上がった。
ヒュンケルは、魔王軍に身を置いていた少年の頃、数多くの魔族の女を抱いた。育ての親である魔王軍の参謀から
あてがわれたのはいつも、サキュバスと呼ばれる種族の女で、その身体は男の欲望を満たすためだけに作られていた。
不自然なほど豊満な胸も、きつく男根をしゃぶりあげる膣口も、性交の相手としては、人間の女に望むべくもない極上品であった。
しかし今、レオナを犯しながらヒュンケルは、どんなサキュバスを抱いても感じることのなかった快感を得ていた。
気高い王女の身体を蹂躙しているからか。それとも、人間の女と子をなそうとする人としての本能ゆえか。
ヒュンケルはほとんど衝動的に、レオナの膝裏を高く押し上げ、その身体の最奥を突き上げた。
「あっ………!!」
貫かれ、レオナは我を忘れてよがった。がくがくと全身を揺さぶられ、快楽の波に溺れる。
「あん、あ、あ、あ、あ」
気持ち良い。レオナの全てを、ただその一言だけが占めていた。初めて身体の最奥を突き破られる痛みさえ、
そのときのレオナには気持ち良いとしか思えなかった。陶然とヒュンケルに身を任せ、レオナは考える。
こんな気持ち良いこと、どうして嫌がってたんだっけ?どうして………?
虚ろな視線の先、ヒュンケルの鎖骨の辺りで、何かが揺れているのが見える。小さな、小さな首飾り。
あれには見覚えがある、私も持っている。あれをもらったとき、とても嬉しかった。王宮にそろっている
いくつもの豪奢な首飾りなど、あの小さな首飾りに比べたら、玩具と同然だった。飾り気のない、あんな
小さな首飾りだったのに、どうして?
遠くで、誰かが笑っている。これで一緒に戦える、これでどこへでもついていける。私はもう、遠くから
見守るお姫様じゃない。あなたと同じアバンの使徒なんだから。
ねえ、ダイ君?
「………駄目!!」
弾かれたようなレオナの声に、ヒュンケルの理性が目を覚ました。自らが手をついたシーツの上で、レオナが目を見開いたまま
泣いている。汗にまみれ、息を弾ませてはいるが、その凛とした表情は紛れもなく、いつもの彼女だった。
眉を寄せ、レオナは哀願する。
「お願い……お願い、やめて」
切々と訴えかける言葉が、ヒュンケルの胸に忘れていた痛みを甦らせた。
「私……ダイ君が好きなの。ずっと好きだったの。ダイ君じゃない人の赤ちゃん生むなんて、いや。いや、よ、ヒュンケル」
はらはらと、レオナの瞳から涙が溢れた。
交わったまま、ヒュンケルはレオナの華奢な痩躯を抱き締めた。哀れな少女。その血筋ゆえに愛しい男を待つことも出来ず、
その強さゆえに情欲に溺れ続けることもできない。このまま、彼女を哀れと思う心が命じるまま、彼女を解放することが
できたらいいのに。そうできないことを、ヒュンケルは知っている。
『―――割れるような喝采の声が聞こえます。舞う花、祝砲の音、人々の熱狂。その全てはレオナ姫と………
姫が腕に抱く、銀髪の赤子のために』
城に向かう前に立ち寄った、テランの霊廟。神秘的な黒い瞳が、ヒュンケルを見据えて断言した。メルルの予知は、既に
占いの域を大きく超えている。誰の未来であれ、数年先までなら確実に言い当ててしまうのだ。縋るように、ヒュンケルは
もう一つの問いをメルルにぶつけた。メルルは目を伏せ、苦しげに言った。
『ダイさんの影は………どこにも、見えません』
「姫……レオナ姫」
レオナを抱き締めたまま、ヒュンケルは動いた。身を捩って逃れようとするレオナを、力ずくで腕の中に押さえ込む。
「お心を、強くお持ち下さい。何があろうと、貴女ならできる」
強く、強く。レオナはダイを待ち続けるだろう。ヒュンケルなど及びもつかぬような強靭な心で、どんな痛みからも
立ち上がるのだろう。その様が、見えるようだ。
「いや……っやだぁ!!」
泣き叫ぶ声は、ある瞬間に終(つい)えた。どくん、どくんと、身体の奥に熱い迸りを感じ、レオナは気が遠くなるのを
感じた。既に自分ではない別の生き物が、身体の中に息づいているような錯覚を覚える。悪夢のような現実から、
ほんの刹那逃れようと、レオナは意識を手放した。糸が切れたように表情をなくすレオナの瞳から、涙が一筋つたって、落ちた。
数ヵ月後、パプニカ国女王レオナは、世継ぎとなる男児を産み落とす。名は、ディーノ。
⇒epilogue
|