「あいつら、何喋ってんのかなぁ?」
アバン手製のオレンジシャーベットを頬張っている最中、ダイはポップにそう耳
打ちされた。
あいつらとは誰のことか、未だに背を追い抜かせない兄弟子の視線を、見上げる
ようにして追うと、
そこには談笑するヒュンケルとメルルの姿があった。お互い黙って聞き役に回っ
ているイメージの二人が、
にこやかに語らい合っている姿は、確かに少し、妙な感じがする。
「さぁ?」
すっかり冷えた口内を舌先でぬくめながら、ダイは気のない返事を返した。喧嘩
しているなら
ともかく、仲良く話しているんだからいいではないか。そう言いたげな弟弟子に
、ポップは
もどかしげに捲くし立てる。
「お前、変だと思わないのかよ?ヒュンケルとメルルだぞ。接点ねえわ、お互い
口下手だわ、話せる
要素がねえだろうが」
「そうでもないかもよ。だってさっき……」
言い掛けて、ダイははっと口を噤んだ。ヒュンケルを見る、ポップの目が、普通
ではなかったのだ。
酒に酔っているわけでもなかろうに、酷く物騒な視線で、射るようにして睨めつ
けている。
何をしようというわけでもないところを見ると、本人にその自覚はないらしいの
だが。
恋愛沙汰にはとんと疎いダイでも、叢から垣間見たヒュンケルとメルルのあの姿
を、今口にしては
いけないことだけは、本能的に分かった。
「……肝試し、ペアになってたし」
「ああ、そうだっけ」
低く呟く、苛立ったような声。ダイは肩をすくめ、密かに息をついた。
だって変じゃないか。ポップはマァムが好きなんだろ?マァムとうまくいきそう
なんだろ?
だったらメルルが誰と話そうと、もう関係ないじゃないか。
相思相愛の恋しか知らないダイに、兄弟子の不機嫌の意味は、さっぱり分からな
かった。
「振り返るな」
声を落としたヒュンケルの警告に、メルルは回そうとした首をぴたりと止めた。
「これ以上つけあがらせないほうがいい。いつまでもポップだけを見ているわけ
じゃない、それぐらいの
姿勢でいろ。あいつのためにもならん」
「……あいつのため『にも』?それは、私のためってことですか?」
「まぁ、そうだ」
短く、切り捨てるような剣士の言葉に、知らず知らず頬が緩む。
恋ではなくても、誰かに思いやられているというだけで、少なからず心が温もる
。心に星が落ちて来る、
それは多分この感覚を指すのだろう。
メルルの思いを察したように、ヒュンケルもまた微笑み、手を差し出した。
「行こう」
「どこへ?」
「どこでもいい。二人で姿を消すことに意味がある。少し懲らしめてやろう」
初めて見る、悪戯っぽい少年のような表情に、メルルは共犯者の笑みを返し、そ
の手を取った。
End
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