「…………」
「…………」
「…………」
二人。ただただ無言で暗い森の中をあるく。
本来ならここで『お化け』役の兵士が出てくるはずだが、誰も出てくる様子は無
い。
草むらに隠れる人の気配は感じるが、全員こちらに出る手前で気圧されたように
茂みの中に隠れてしまう。
ただ静かに歩いているだけの俺達をまるで怖がるように草むらに隠れる兵士達に
眉を顰めながら、横で静かにあるく黒髪に目をやる。
普段あまり言葉を交わすことの無い黒い髪の占い師…。
確かこういう暗がりで驚かすと、女はとても怖がるので男は守ってやるものだと
姫は言っていたように思う。
「…………」
「…………」
「…………」
とても怖がっている風には見えないが、もしかすると心の底では恐怖を感じてい
るかもしれない。
そんな事を無理に考えながら俺は涼しい顔であるく女に初めて『怖くないのか?
』と、尋ねてみた。
突然投げかけられたその声に、女は驚いたように目を丸くして初めてこちらを向
く。
「怖い、ですか?―――そうですよね。肝試しなんだから、怖がらないとお化け
の方に失礼ですよね」
俺の問いかけた意味とは違う、見当違いの方向で女は納得したように頷いた。
姫から女は暗闇や幽霊を怖がるモノだと聞いていたのに、この女はどうやら違う
らしい。
俺の言葉を完全に勘違いしている女は、『怖がる』為にキョロキョロとお化けの
役を探していた。
―――奇妙な女だ。不思議な思いで女を見て俺は思わずつぶやいた。
「怖くは無いんだな。こういう類のものは女は怖がると聞いていたんだが……」
「はぁ…。そういうもんなんですか…………お化けが怖い………怖い」
「………………」
「………………」
うんうんと唸りながらしばらく何かを考えた後、女は感慨深げにため息を付いた
。
「――――でも、お化けより人間の方が怖いですよ、ね」
「まぁ。な…………」
妙に説得力のあるその一言に頷きながら、お化けも何も出てこない森の中を二人
で歩いた。
End
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