『花嫁』は、山田圭子先生の代表作『ゴーゴーヘブン!!』の単行本2巻に収録されている約70Pの短編漫画です。 2ちゃんねるの「おすすめ短編少女漫画」的スレにも度々登場する名作なのですが、連載漫画のおまけにくっついてるので 知名度はとっても低い!(好き勝手言ってます)ゴーヘブはブックオフ等にもたまに並んでいるので、ご興味おありの方は ぜひお読みになってみて下さい。短いので15分ぐらいで読めます。

近くに古本屋さんも漫喫もないよ!という方のために、書いちゃいましたあらすじ説明。無駄に長いです。しかも 漫画の美しさ・切なさがまったく伝えきれてないので、お時間ある方はぜひ、これで済ませないで原作をお読みになって 下さい。
一行空けて始めます。

古代、日本の離島でのお話。島一番の女猟師・氷雨(ひさめ)は、神木のもとに生贄として差し出された。
島を守るべき存在でありながら、50年前から狂乱し、次々と天災を引き起こしてきた神木を鎮めるため、これまで「花嫁」と称して差し出された生贄娘は17人。依然凶行の治まらぬ神木を征伐するべく、島民は氷雨を、生贄を装った刺客として送り込んだのである。 神木を目指して雪山を登る途中、遭難して重傷を負った氷雨を、神木は「死に損ないに用はない」と一度は突き放すも、連れ帰って傷を治してやる。「樹に名などない、好きなように呼べ」という神木を、氷雨は「娑羅(しゃら)」と名づける。亡き父が教えてくれた、徳の高い西方の樹の名である。

氷雨の父は、娑羅が起こした天災によって、氷雨が幼い頃に死んだ。以来、相次ぐ天災で困窮した島にあって一人生き抜くため、氷雨は誰からも心を閉ざし、泣くときは必ず森の奥に隠れ、一人で涙を流していた。
幼い頃の夢を見てうなされた彼女に、娑羅が呟く。「お前、いつも森で、一人で泣いていた娘だな」森で流された血や涙に敏感な娑羅は、氷雨の魂のことも覚えていたのだ。 その手の温もりは、泣きじゃくる幼い氷雨をいつも優しく包んでくれた、金色の秋の陽射しそのものだった。娑羅の腕に取り縋り、父を失って初めて、他人の前で涙を流す氷雨。

娑羅に心を傾ける氷雨だったが、自分より以前に娑羅に差し出された17人の生贄娘の行く末を知り、娑羅への憎しみを新たにする。娑羅に心を奪われた娘たちは、娑羅の神体である大木に纏わり付く宿り木に姿を変えられていた。娑羅を信じた娘たちの末路に、氷雨は自分の亡き父を重ねる。氷雨の父は、妻も母親も娑羅の天災で亡くしていながら、最後まで娑羅の森を愛し、神木を信じていた。
「お前が父さんを殺した!最後までお前を信じた大馬鹿者をな!」氷雨は、彼女の狼煙を見て駆けつけた島民と共に、娑羅を捕らえる。分身である神体に火を放たれ、里に幽閉された娑羅は悶え苦しんでいた。

手柄を立てた氷雨は、しかし、塞ぎこんでいた。そして、「お前には聞く権利がある」という島長に、驚くべき真実を聞かされる。50年前、何故娑羅は狂ったのか。 老婆である島長がまだ幼い頃、島に朝廷からの使者がやってきた。島を守る神木を、朝廷祭祀のために差し出せ、さもなくば島中に毒をばらまくというのである。 娑羅を「お柱様」と呼んで慕い、事実神木に守られて生きていた島民は、悩んだ末使者の命令に背いてしまう。約束どおり、猛毒がばらまかれた。しかし、島民に一人として死者は出なかった。娑羅がその毒を一身に受け、身を挺して彼らを守ったからである。島民は喜び、ますます「お柱様」への信仰を強めた。 だが、猛毒は数年をかけて次第に娑羅の精神を侵し、ついに娑羅は狂ったのである。
「狂った奴が一人死んでくれれば、島の皆が助かるのだ」という島長の言葉に弾かれたように、氷雨は娑羅の幽閉場所へ向かう。
神体を傷つけられたことによって、毒による凶暴化を抑えられなくなっていた娑羅は、駆けつけた氷雨にさえ襲い掛かるが、氷雨は一歩も退かなかった。「どんなに苦しくても、本当に正しいもの、美しいものを信じ続ける勇気を、忘れるな」という父の言葉を思いながら、娑羅の名を叫ぶ氷雨。正気を取り戻した娑羅は、彼女を連れ、自らの森へと帰る。

夜、これまでの苦しみを、娑羅は氷雨に打ち明ける。毒による狂乱はどうやっても制御することはできず、死にたくても、神の力を持つ身には叶わなかった。娑羅の天災でどれほど傷つこうと、大切な者と幸せになりたいと願い、そのために何度でも立ち上がる愚かな人間たちが、愛しくて哀れでならなかったと、娑羅は泣いた。母親のように娑羅を抱き締めた氷雨は、娑羅と一夜だけ結ばれる。朝になれば、里から追っ手が来るのだ。

朝、傷ついて動けない娑羅に代わり、氷雨は追っ手を剣で迎え撃つ。十数人の男を斬って捨てた氷雨は、全員仕留めたものと思い息をつくが、背後に気配を感じてすぐさま剣を振り下ろす。しかし、刃の下にいたのはまだ幼い少年だった。剣を止める氷雨。
少年は氷雨の懐に飛び込み、短剣を突き立てる。「父ちゃん返せバカヤロウ!」追っ手に加わった父親に、秘密裏についてきたらしい少年が、斃れた父親に取りすがるのを、氷雨は茫然と見ていた。最後の最後で鬼になれなかった自分を嘲りながら、氷雨は娑羅を思う。「お前を残して、死にたくない」
そのとき、娑羅の神体である樹が突然に枝を伸ばし、氷雨の元へと向かう。娑羅が、残された全霊力をもって、氷雨を迎えに行ったのだ。枝に満面と咲き誇り、舞い散る花々のなかで、微笑む氷雨。娑羅は彼女を抱き取り、崖下へと落ちていく。 不思議な花が降り注いだ島では、今も人々が幸せに暮らしている。

以上です、って長いよ!まとめる頭がなくてすいません。書いてて楽しかったー(悦)。
一番好きなシーンは、娑羅が氷雨を、「いつも森で、一人で泣いていた娘」と言い当てるところです。こういう「分かってるよ」的包容力は 女の夢ですw「森で流された血や涙に敏感」という何気ない台詞が、娑羅の苦しみの伏線となってたりもします。ラスト、花と共に 氷雨が崖下へ舞い落ちていくシーンも、何とも美しいです。

ここで終わっときゃいいんですけど、この間書いたダイレオと絡めて、自分語りも書いてみました(どこまでうざいんだ)。 やたらハイテンションです。お時間とお心に余裕のある方だけお付き合いください。

この間この漫画を実家で読み直しまして、「くー、やっぱ面白いぜ!」と大興奮、何を思ったか家に持って帰って、旦那に強制的に 読ませてみました。読後、「どう?どう?」とわくわくで聞いてみたところ、「何か訳分からん」とばっさり。ええぇぇぇ。 「何でだよおぉぉ!!」と襟首つかみながらガクガクしてみると、理由はちゃんとあったみたいです。
というのは、ラスト近くに氷雨が追っ手の島民を斬り殺したのがどうしても納得いかない、と。娑羅が50年前、命を賭けて守った 島民を、氷雨が殺してどうするんだ、あんなものは暴走にすぎない、死んだお父さんが見たら悲しむだろう、 って話でした。悔しいけど目からウロコだった、よ……orzやっぱり私は女性なので、 氷雨の目からしか物語を見てなかったんです。この漫画と出会ってから10年余、「だけど娑羅から見たらこれってどうなのよ?」 という視点をもったことは、ついぞありませんでした。
だけど、だけどね!それじゃ娑羅と氷雨は、森へ帰ってからどうしたらよかったんでしょう?神通力の弱った今なら人間の刃でも、 娑羅は殺されるかもしれない。今も娑羅の体は毒を受けていて、明日にもまた狂って天災を引き起こしてしまうかもしれないのだから、 娑羅は殺されることにやぶさかではないでしょう。座して死を待つ、という道も二人には残されてたんです。
だけど、だけどだよ!(うるさいな)それじゃやっぱりあんまりではないでしょうか?いくら娑羅が神様の木でも、島民を庇って 毒を受けた挙句、最後の最後まで狂神の名を背負い続け、自らが守り抜いた島民の手にかかるなんて。自分の愛する人が そんな目に遭うってときに、黙って見ていられるはずがありません。たとえ自分以外の者が全て(彼自身さえ)、彼を見捨てたとしても、 私だけは彼を守る、それでこそ女ってもんです。あっぱれ氷雨。
しかも、氷雨が島民を『殺した』という記述はどこにもないんです。氷雨を刺した少年は、父親に駆け寄って「すぐに医者呼んで来て やるからな!」と呼びかけています。氷雨は島民を殺したのではなく、峰打ちにしただけ、と考えるほうが、自然です。(……っていうのは 強すぎますかねw現に私も、旦那の突っ込み受けるまで私もここは「殺した」と解釈してました。でも娑羅の立場を考えたら、やっぱり、 ここで殺すわけにはいかない。もしかしたら、ここはこの漫画の『穴』なのかもしれません)
それでも、自己中心的という謗りは免れないと思います。娑羅を生かしておけば、明日にも彼はまた狂うかもしれない。 そうなればまた、天災で島は犠牲を被ります。
けど、私なら何とかできるかもしれない、という自信が、恐らく氷雨にはあるんです。現に、幽閉場所で、神体を傷つけられて 荒ぶっていたとき、娑羅は氷雨の叫び声を聞いて、正気を取り戻しています。
氷雨は、喜びと共に思ったことでしょう。彼がどんな姿になっても(荒ぶる時の娑羅は 怪物の姿)、私だけは恐れない、狂って暴れるその身体を、命を賭けてでもとめてみせよう、と。その自信と覚悟が、追っ手を 迎え撃つ前の、「お前の呪いは私が必ず解いてやる。私がしわくちゃのばばあになって死ぬ前に、必ず」という台詞に つながっていくんだと思います。
かつて娑羅を愛した17人の生贄娘と氷雨の違いは、恐らくそこなんですね。彼の優しさ・美しさに憧れるだけではなく、 狂った彼を哀れむのでもなく、「私が助けてやる」「お前の苦しみを一緒に背負ってやる」という強さ。「ほんとうに美しいもの、やさしいものを信じつづける勇気を、 なくさないで」という父の言葉が、彼女にその強さを与えたのかもしれません。

と、鼻息も荒く妄想解釈したところで、思ったんです。この、男の自己犠牲。女の強さ。どっかのカップルに似てないか?と。 そうっ……レオダイだよ!(前振り長かったなー)ダイも娑羅と同じく、「人間を守る」ことを使命として生まれついています。 人を守るためなら、喜んで命を投げ出さなければならない宿命。最終回、ダイはその使命に殉じ、黒の核晶を抱いて空へと 飛び去ります。そしてレオナもまた、怪物の姿になるかもしれないというダイを、「ダイ君はダイ君」と送り出す『強さ』を もっていました(双竜紋解放時)。
宿命に苦しむダイと、それを救うレオナ、っていうのを書いてみたい!と思ったのが、先日のレオダイのきっかけです。 結局苦しむダイの部分しか書けませんでした(がっくし)。自分自身がふにゃふにゃのチキン女なので、強い女の話は 非常に難しいです。一生書けないだろうなぁ……。

長々と失礼しました。ここまで読んで下さった方、そのお心の広さに跪かせて下さい(平伏)。ありがとうございました。



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